ブーデーとN君
第2章「再会、そして増殖」

あの衝撃的な「ブーデー」との出会いから2週間が経ったある日。
私とI君がいつもの様にバイトをしていると、休暇中のN君が現れた。


N君「よう♪」
私 「お~、今日はどうしたの?」
N君「えっとね、仕事終わったらビリヤード行かない?と思ってね♪」
私 「あ、今日は暇だし大丈夫だよ。」


実はココの所、N君は以前より輪を掛けてビリヤードにハマっていた。
N君自らもマイキューを購入し、ビリヤード屋へ毎日の様に通っているらしい。


N君「じゃあ、ボク先に行って来るね~♪」
私 「あれ?もう行くの?」
N君「うん、だってちょっと練習したいからさ!」
私 「OK、解った、後でI君と一緒に行くから。」
N君「うん♪」


と嬉しそうにN君は店を後にしていった。


(へぇ~、一人で練習しに行くのか・・・よっぽどビリヤードが楽しんだなぁ・・・)




その夜、仕事を終わらせた私とI君は
N君が待っているビリヤード屋へと向かっていった。


『カランカラン・・』


マスター「おぉ、いらっしゃい。」
私   「どーも、こんばんわっス。」
I君  「こんばんわー、N君来てますか?」
マスター「ああ、いるよ。今ね、常連と撞いてるよ。

私&I君「・・・常連??」


N君がココの店の常連客と撞いている・・・・・、
まだ通いだして間もないのに・・・・・おっかしいなぁ。

と不思議に思った時、台の方から


『ヨセサイコー、ヨセサイコー』


と云う声が聞こえた。


「ん?何の音だこりゃ?」

ちなみに「ヨセサイコー」の「ヨセ」とは、ビリヤード用語で云う「寄せ」の事
ビリヤードで目的の玉をポケットした後、
手玉を次に入れたい玉の近くまで「寄せる」技法の事だ。


「んー?誰が言ってるんだろ?」


良く聞くと何処かで聞いたような声だ。


私達は何だか嫌な予感がした。

そして台の方を恐る恐る見てみると・・・・・





・・・・・居た。




「ブーデー」だ。




「ヨセサイコー、ヨセサイコー」

と云う鳴き声を発していたのは「ブーデー」だったのだ。

その代わりに一緒に撞いているのは、予想通りN君・・・。



私は愕然とした。

当然、I君は既に戦闘体制を取っている。



私達を見つけたN君は、とても嬉しそうな顔で、

「おー♪来たかー。ちょっと待っててねー。」

と言う。

「あ・・いいよいいよ、I君と遊んでるから遠慮しないで続けててよ。」

これ以上「ブーデー」と関わりを持ちたくない私
N君の誘いを断り、I君と二人で撞く事にした。

N君は再び「ブーデー」と仲良くビリヤードをやり始めた。




「・・・つーか、アレはどう云う事なんすかね?」


と私は「ブーデー」とN君をアゴで指しながらI君に尋ねた。

N君は買ったばかりのマイキューを、嬉しそうに「ブーデー」に見せびらかしている。


全く持って予想通りだった。


もしかしたら、ビリヤードに通っていたのでは無く、
「ブーデー」に会いに行っていたのでは無いだろうか?

そう思わせるほどのN君スマイルだった。



一方のI君は


「・・・知らねー。」


と、素っ気無い態度。
やはり「ブーデー」の存在に対し、イラついているようだ。


しかし、今回のケースはI君にしては非常に珍しい。

本来、I君は好き嫌いの感情を出さずに誰とでも気軽に話し掛ける男なのだ。


しかし、気持ちはわかる。

相も変わらず「ブーデー」はN君にもギャーギャー喚いてうるさいのだが、
イラつくのは、それだけでは無かったからだ。



ヤツは、豹柄が混じった黒い服をまとい、
首には金色のネックレス、腕には金色のブレスレットと云う
オール金で構成されたいでたち。
どこかの部族の衣装の様に着飾っている「ブーデー」は
聴覚的だけでなく視覚的にもI君をイラつかせているのだった。

さらに「ブーデー」が持っているバッグは「シャネル」
もうそれだけでも、イライラに拍車を掛けるのには十分な要素であった。





そんな感じでI君と話しながら1時間が経過した頃、
あるお客さんがやって来た。


『カランカラン・・』


私はそのお客さんを見ると、その相手にドキッとした。

現れたのは「ブーデー」の彼氏だったのだ。


それまでN君は「ブーデー」と仲良くビリヤードを楽しんでいた。
がしかし、彼氏が現れた瞬間、静寂に包まれ・・・・・

そして、N君と彼氏は激しい火花と飛び散らしていた・・・・




「あれ?普通に話してるや。」


一悶着あるかと思いきや、彼氏は普通にN君・「ブーデー」と会話をしている。

そういえば、少し前から私達抜きでビリヤードに通い始めていたN君。
その「少し」の間にあの「ブーデー」カップルと仲良くなったのだろう。
さっすが人見知りしないN君だな、と思ったその時、


『カランカラン・・』


と再び店のドアが開き、お客さんが入って来た。

今度は女性だ。



私とI君は入って来た女性を見て直感的に思った。


「ああ、・・・あれは絶対に『ブーデー』の友達だな・・・。」


「ブーデー」の彼氏の後に続いて入って来ただけが理由ではない。

彼女は「ブーデー」と体格がうりふたつだったのだ。


そしてその女性は予想通り「ブーデー」に手を振っている。


偉人の言葉で『ブスの友達は美人が多い』というのがあったが、
その考えを根底から覆された瞬間であった。



ともかく後に、私とI君が「2号」と呼ぶ事になる女性との出会いだった。





さて「2号」は「ブーデー」に向かって、

「そろそろ行く?」

と聞いていた。


どうやら彼氏と「2号」車に乗ってビリヤード屋に来たらしく、
これから何処かに行く約束があるようだ。


「そーだねー、そろそろ行こうか。」

と「ブーデー」は会計を済ませ、出て行く準備をし始めた。


その様子を横から見ていた私とI君は

「はぁ~、やっと帰るのかぁ~」

と安心していた。


すると、N君がふと私達の台に近づいてきて、こう言った。


「あのさー、これから『ヤビツ峠』にドライブしに行くんだけど、一緒に行く?」

「ヤビツ峠」とは厚木の隣「清川村」から「秦野市」へと抜ける峠である。
クリスマスの時期には巨大ツリーが飾られる事で有名な「宮ヶ瀬湖」から
「秦野市街」に抜ける車一台が抜けれるかどうか位の細い峠道は、
当時の走り屋と呼ばれる人種に大人気のスポットだったそうだ。


と、そんなN君の誘いに対し、当然我々は


私 「謹んでお断りします。」
I君「むしろ、断っていきたい。

と即答した。


N君「そっかー、それじゃあボク一緒に行って来るね♪」
私 「いってらっしゃ~い(棒読み)」
I君「いってらっしゃ~い(棒読み)」

との会話の後、N君は嬉しそうに駆け足交じりになりながら、お店を出て行ったのであった。



こうして、「ブーデー」・ブーデーの彼氏・2号
そしてN君と云う何とも微妙な面子の集団は、夜のヤビツ峠へと消えていったのだった。



(ホッ、良かった・・・・。)

N君が思ったよりしつこく誘って来なかった事を密かに感謝した。
「ブーデー」と狭い車の中でずっと居たくない。
考えるだけでもゾッとする。

そんな気持ちでいっぱいだった私とI君は

神様、どうかこれから永遠に「ブーデー」と関わり合いませんように~

と願ったのだった。






しかし、儚くもその願いは打ち砕かれた。

約1週間後、「ブーデー」とN君が付き合い始めてしまったのだ。

これで私とI君は「彼氏の友達」と云う烙印を押され
嫌でも「ブーデー」と関わる事になる。

史上最悪のパターンだ。





その事実を知った私達に追い討ちを掛けるように


「今度、一緒にドライブ行こうってサ!」


と言ったN君の言葉が未だに忘れられない。














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