(ここからはK君の体験談を元に構成しております。)
さて、当日・・・運命の日は訪れた。
K君は車でN君を拾いに行こうと待ち合わせ場所へと向かった。
待ち合わせ場所はN君の家の近くにあるコンビニだった。
そして、到着したのは待ち合わせ時間の15分前。
(あーあ、早く来すぎちゃったなぁ。)
と思ってふと、コンビニの方を見ていると、
そこにはレジで会計をしているN君の姿が。
よっぽどスノボが出来るのを楽しみに待っていたのだろう。
K君が車から降りると、N君はすぐに気づいて、
「おはよー、昨日は眠れなかったよ~えへへ~。」
と、本当に嬉しそうな顔でK君に話し掛けてきた。
「よし、そんじゃあ、N君の持ってる荷物を積もうか。」
とトランクにN君の持っていた買ったばかりのバック(ウェア入り)、
車の屋根の上に買ったばかりのボードを乗せる。
これでオッケー
とN君を見るとその腕には小さなリュックを抱えている。
K君「N君、このリュックはトランクん中入れなくていいの?」
N君「うん、これはいいんだ。」
K君「へぇ~、中に何か入ってるんだぁ。」
N君「うん♪見せようか?・・・ジャジャ~ン!」
リュックの中に入っていたのは、
なんと当時、発売されたばかりのMDウォークマンが入っていた。
スノボに行く前日に6万円も出して購入したらしい。
・・・しかし、スノボの板といい、MDウォークマンといい、
N君も良くそれだけ買える金があったモンだ・・・。
と言いながらも後々N君に聞いてみたら、
冗談抜きで金銭的に追い込まれていたらしい。
後先考えない所が、N君らしいと云えばN君らしいが。
ともあれ、N君はMDウォークマンが入っているリュックを持ってK君の車に乗り込んだ。
その後、K君の友達と合流、目的地へと出発したのであった。
道中、人見知りしないN君はK君の友達とも仲良く話していた。
特にN君の持っていたMDウォークマンの話題になると、
N君は嬉しそうに搭載されている機能やMDのウンチクについて熱く語ってくれていた。
それからどのくらいの時間が経ったのであろうか。
会話も途切れ、皆、まったりと外の風景を眺めていた。
車のスピーカーから流れてくるサザンの曲。
程好く良い気分になっていた頃、
N君はセンセーショナルな行動に出た。
おもむろにリュックからMDウォークマンを取り出し、一人で聞き始めたのだ。
それもヘッドホンで聞くとか甘っちょろいモンでは無い。
高さ20センチ程のスピーカー(×2台)をリュックから取り出して、
車のCDに負けないくらいの大音量で聞き始めたのだ。
その時、K君一同は一瞬何が起こったのか理解出来なかったらしい。
更に性質が悪かったのが、N君はアニメ好きだ。
よって、流れてくる音楽もアニメ系だった。
K君の話だとN君の好きなアニメの曲を集めたとかどうとか言っていたらしい。
今までの良い感じだったサザンの曲から一転、
「きまぐれ●レンジ●ード」エンディングテーマ(1曲目)や、
「●ムのラブソング」(2曲目)が収録されている
「N君メモリアルBest盤」
を聞く事になってしまった。
その非常識な行動にK君は流石に注意しようと思い、控えめながらN君に注意した。
K君「あのさ、CDかけてるからさ、N君のMDさ・・・良い?ごめんね。」
N君「あ・・・ごめんごめん、うるさかったよね。」
とN君はすぐにMDウォークマンに手を伸ばした。
しかし、手を伸ばした先は電源では無かった。
音量のボリュームを若干下げただけであった。
そして又、N君は聞き始めてしまう。
当然、まだ耳に入ってくる音量だ。
N君は分かっている様で分かっちゃいなかったのだ。
やむなくK君はサザンを断念、
代わってMDウォークマン(N君Best)を聞く羽目となった。
それから暫く、K君一同改め
「N君を大いに盛り上げるN君軍団」の音楽鑑賞は続いた。
とにかく「N君Best」の選曲には謎が多い。
5曲目位まではアニメの曲尽くしだったのが、6曲目からはいきなり「BUCK・TICK」の曲、
そして、その次は「MY LITTLE LOVER」の曲が流れてきたりと、
次に掛かる曲が全く予想できない為、リラックスして音楽を聞けないそうだ。
さらにMDウォークマンの液晶に流れている文字を覗き見した所
「My Little Lover」が「My Ritoru Laba-」
と、これ以上無いスペルミスが炸裂しているのを発見してしまい、更に脱力しまくるらしいのだ。
例:
やがて、K君の車は近くのパーキングエリアに止まった。
N君がトイレに行っている間、K君は友達をかき集めて作戦会議を開いた。
友達1「どうする?・・・多分、MD最後まで聞くぞ。」
K君 「しまったなぁ・・・もっと強く注意しておけば良かったよ。」
友達2「つーか、もう一回注意すれば良いだろ?」
K君 「いやいやそれがね、
『しつこく言い過ぎるとスネる』って誰かが言ってたんだよ。」
友達1「そっか・・・しょうがないか・・・あのMD聞き終わるまでは我慢するしかないな。」
K君 「ん・・・本当、ごめんなぁ。」
こうして作戦会議は終了、再びK君の車に乗り込んだ。
(取りあえず、最後の曲まで我慢しよう・・・)
とK君は思いながらふとN君を見た時、
衝撃的な光景を目の当たりにしてしまった。
なんと、MDを1曲目から聴き直そうとしている!
K君達が愕然とした。
又、あのMDからは再び
「きまぐれ●レンジ●ード」エンディングテーマ(1曲目)が流れている。
(ヤバイ、このままじゃスキー場に着くまで聴かされてしまう・・・・・。)
(何とかしてN君を止めさせねば・・・・・。)
と手段が無いのだろうかと考えているうちに、
N君のMDに突如異変が起きた。
2曲目に入ろうとした時、いきなり曲がピタリと止んだのだ。
そしてN君が、
「あれ、しまった~。もうダメかなぁ~。」
とMDを見ながら呟いている。
そう、N君のMDプレーヤーは電池切れになったのだ。
K君はその時、友達と顔を見合わせて「ヤッター!」と心の中で叫んだ。
これでやっとN君のMDを聴かなくて済む。
これでやっとサザンの曲が聞ける。
K君達は何かに開放された充実感に満ち始めたのであった。
そして、K君は嬉しそうにN君に向かって、
「あー、電池切れちゃったみたいだね、CDにしよっか?」
と、選択肢が一つしか無い質問をN君に投げかけた。
『そうだねぇ~CD聴こうかぁ~。』
と云うセリフをN君の口から直接聴く事で
K君は完全なる勝利感・征服感(?)を味わいたかったのだろうか。
しかし次のN君の一言で、その思いは打ち砕かれた。
「大丈夫、スペア買ったから♪
ほら、こんなに。ジャジャ~ン♪」
当日の朝、N君がコンビニで買っていたもの。
それはMDウォークマンを聞く為の電池だったのだ。
こうして、
『あんなにソワソワしないで~ん♪』
と云う歌声が漏れてくるK君の車は、順調にスキー場へと向かっていったのであった。
続
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