「N君って、今は何の仕事やってるの?」
ある日、私は昔働いていたバイト先でビールを飲みながら、
バイト時代からずっと仲の良かったWさんに聞いた。
「えっとね、最近近くのゲームセンターで働き始めたらしいよ。」
私は、長い間働いていたバイト先を辞めてから数ヶ月経っているが、
店の方にはちょくちょく顔を出すようにしていたので、
相変わらず交流は絶えることなく、仕事が終わってからも食事をしたり飲みに行ったりしていた。
「そっか、ゲーセンかぁ・・・。
ゲーム好きのN君には結構向いてるかもしれないね。」
昔から休憩時間は必ずと言って良いほどゲームセンターへ遊びに行ってたN君。
そんな訳で仕事がキツかったうどん屋よりも、
趣味と実益を兼ねたゲームセンターで働く方がN君には向いているなと思ったのだ。
Wさん「でもね、ゲームセンターに働き出してから、
1回もバイト先に顔を出してないのよね、どうしてるのかなぁ・・・」
私 「ふーん、忙しいのかねぇ?」
そこで私は暫く考えた挙句、
「よし、ちょっとN君の様子を見に行って来るわ。」
と直ぐに会計を済まし、N君の働くゲームセンターへ遊びに行くことにした。
外はとても寒かった。
街中では一足早くクリスマスシーズンが到来しており、とても賑わっている。
また、前日まで珍しく雪が降っていたので、未だ道端には雪が積もっていた。
(ふぅ、すっかり寒くなったなぁ。)
と考えながら、店を出てから1分もかからない所にあるゲームセンターへ向い、
カウンタでレジ計算をしている人に向かって声を掛けた。
私 「店長ー、こんちはー!」
店長「おお、君かぁ、久しぶりだねぇ。」
声を掛けた人は店長さんだった
何を隠そう私も良くゲームセンターに通っていた。
お客さんが来なくて店が暇な時は、電話の子機を持ってゲーセンに赴き、
裏のパスタ屋の店長と一緒に格闘ゲームをプレイ。
お客さんが来て電話がかかって来るまでずーっと遊んでいった記憶がある。
当然、電話を掛ける係はWさんだ。
まぁ、その時の縁で今でもゲームセンターの店長さんとは仲が良かったのである。
私 「どうですか?N君はちゃんと働いてます?」
N君「ああ、N君かぁ・・・はっは、相変わらずだよ。」
と、苦笑いをした。
店長の言う「相変わらず」という言葉には色んな意味が込められている。
仕事はそれなりに出来るのだが、N君の「お子ちゃま」な性格にかなり手を焼いているらしい。
そして、彼の口から発する「オチ」の無い会話を毎日聞いている筈であり、店長も相当参ってるハズだ。
しかし、私は敢えてその点には触れずに、
私 「あの、今日N君来てますか?」
店長「えーっとね、今UFOキャッチャーの景品入れてるよ。
・・・ほら、アソコ。」
と、店長の指差す方向を見てみると、
バカデカいダンボールからぬいぐるみを取り出して、
慣れない手つきでUFOキャッチャーに入れているN君の姿が見えた。
(お~、頑張ってるみたいだねぇ。)
と、私はN君に歩み寄り、声をかけた。
私 「久しぶりー。」
N君「・・・あ、あれー、久しぶりー♪元気だった?」
昔と変わらないN君スマイルだ。
(やっぱり相変わらずだなぁ・・・・)
と懐かしく思いながら、暫くN君と話をしていると、
N君「あのね、もう少ししたら仕事終わるからさ、
それからご飯食べに行こうよ♪奢るからさ♪」
私 「奢りかぁ~」
相変わらず「奢り」と云う言葉に弱い私は、N君の言葉に甘えご馳走して貰う事になった。
暫くして仕事も終わったN君と近くの居酒屋に入った私は、昔話などをして盛り上がった。
久々に会った事や酒の勢いもあり、今まで話さなかったプライベートな事までも話した。
その際、N君は、
「ずっとゲームセンターで働くつもりは無い」
と、話していた。
「へぇ~・・・ならさ、N君って本当はどんな仕事がしたいの?」
と私が尋ねてみた。
すると、N君は嬉しそうに
「えへへ・・・これ、見てみてよ」
と、鞄の中から1枚のパンフレットを出し、それを私に見せた。
それは、とある和風テーマパークの求人内容に関する資料だった。
「実はね、僕、ソコで働きたいと思ってるんだ♪」
N君は昔から「アクションスター」になる事が夢だった。
一緒に働いていた時から
『一度は戦隊ものに出てみたいんだよね~♪』
と云うセリフを、聞き飽きるほど耳にしている。
中学時代は体操部に所属していたN君。
確かに、バック転だけは得意な彼は戦隊ものに出てもおかしくない素質を持っていた。
(悪の工作員系に限るが)
N君「それでね、実は来週、面接に行ってくるんだ。」
私 「へぇ~、もうそこまで話は進んでるんだぁ~。」
N君「うん、でね、面接が通れば即『内定』らしいんだ♪」
さすが、自分の好きな事に関してだけは積極的なN君。
全力投球ぶりは健在だ。
それから暫く、N君と某和風テーマパークについて話をした。
N君の話だと、その和風テーマパークは全国で4ヵ所ほど在り、
働きたい場所もある程度選ぶ事が出来るらしい。
「出来れば、自宅から一番近い所で働きたいなぁ♪」
とN君は話していた。
(そうか・・・N君も夢に向かって頑張ってるんだなぁ・・・・。)
N君と別れた私は自宅への帰途で、そう呟いた。
それから、2週間後。
私は昔のバイト先で面接の報告をしに来る予定のN君を待っていた。
ビールを持ってきてくれたWさんも気になっているようだ。
Wさん「N君、面接受かってるといいね。」
私 「そうだねぇ・・・・」
そう話していると、不意に自動ドアの開く音がした。
N君だ。
駅から走ってバイト先に来たらしく、とても疲れてる顔をした。
私 「N君・・・面接、どうだった?」
と恐る恐る聞いて見ると、すかさず、N君は
N君「やったよ!内定決まったよ!」
私 「おお!!おめでとう!!!」
感動の瞬間であった。
幼き頃から夢見てた「アクションスター」への第一歩をN君は今、踏み出したのだった。
しかし、同時にそれはN君との別れを意味していた。
私 「それでN君、どこに行くのか決まったの?」
N君「えっとね、富山に行く事になっちゃった♪」
と、いとも簡単に言い退けたのだった。
続
|