ブーデーとN君
第4章「我慢する」

「はぁ・・・何をやっているんだ、俺は・・・。」

私はその時、「2号」の運転する車の後部座席に乗っていた。
「ブーデー」達の根城「ヤビツ峠」からの帰り道だった。

右隣にはブツブツ言いながら外の景色を眺めているI君
そして左隣には必要以上にニコニコしているN君だ。
「ブーデー」は助手席でふんぞり返っており、

「ねぇ〜・・○○ちゃぁ〜ん♪」

助手席の後ろにいるN君がちょっかいを出している・・・・。

そういった位置関係だった。



何故、私が「2号」の車に乗っているのか。


それはバイトが終わった時にN君の

「ねぇ〜、仕事終わったら飯食いに行こうよ!奢るからサ♪

と云う甘い誘いに私とI君が乗ってしまったのが始まりだった。


「あ、行く行く〜」

と私達は返事して、N君の仕事が終わるまで客席に座って待っていたのだが、
丁度、仕事が終わるタイミングで車に乗った「ブーデー・2号」が店に登場。

「あのー、話が違うんですけど」

と云う言葉も空しく、ブーデー軍団(N君含む)に半ば拉致される形
ファミレスへと連行されたのであった。


その後、ヤツらは何故か『ヤビツ』の話で盛り上がり


「ヤビツにドライブ行く?行くよね〜?


と云うN君の誘いも断られないまま、
嫌がるI君と共に「ブーデー」車に乗りこんでしまったのである。



相変わらず、I君はファミレスで飯を食べている時から、

「・・・何でいつも『ブーデー』が来るんだよ・・・ブツブツ」

と文句を言っている。


しかし、私は逆に


「ブーデー」達と話す努力をしよう


と考え始めていたのだった。


それは、私とI君とも機嫌悪そうにする事で、嫌ーな空気のまま時間が経つのが、
精神的に耐えられない、と云うのも理由の一つではあるが、

もしかして、N君と付き合う事になった「ブーデー」を
見かけだけで判断していないだろうか?

話を重ねる事で、初めて会った時には見れなかった良い一面が見えてくるかもしれない。

という淡い期待があったのだ。


本来なら

「あー、今日は用があるから・・・」

と、有りもしない用事を作っては誘いを断っていた私が、

「しゃあないなぁ、付いてくよ。」

と快くブーデー車の乗り込んだのは、そういった事情があったからなのだ。





その頃は丁度、夏真っ盛りと言う事もあり、
車の中では「ブーデー」が


「あぢー、あぢー。」


と鳴きながら、その日の朝に買ったばかりの『VAN16』を体中に吹きかけている。

車の中では「ブーデー」の汗の臭い
「VAN16」の甘い香りでイッパイイッパイだった。


(はぁ〜・・・車内で『VAN16』なんか使うなよ・・・・。)

そんな「ブーデー」の先制攻撃に私は早くもヘコんてしまった。
それでも、何とか「ブーデー」の良い所を見つけようと努力をした。



・・・。



だが、やっぱりダメだった。
所詮「ブーデー」は「ブーデー」だった。




「ブーデー」は「ヤビツ峠」に行く途中、しきりに

『言っておくけど、わたしはヤビツに詳しいのよ』

といわんばかりの態度で話し掛けてきた。

(つーか、あそこって「駐車場」「臭い便所」しか無いじゃねーか・・・。)

話を聞いているだけで知能の低さが伺える。


又、N君との会話を聞いてみると
どうも「ブーデー」はチヤホヤされたい願望があるらしく、
そのエキスが話の節々にふんだんに盛り込まれているのだ。


そして極め付けが、私への一言。

豚「○○君(←私)って結構面白い人だけど、ちょっと損するタイプよね。」
私「・・・はぁ?」

おいおい、エテ公にそんな事言われる筋合いねぇよ。


初めてまともに話して間も無いというのに、
「ブーデー」に上から目線で人物評価されてしまった私は思わず、


「はぁ・・・何をやっているんだ、俺は・・・。」


と帰りの車内で呟かずには居られなかったのだった。


そして「ブーデー」のデカい態度は私達が帰る時まで終始変らなかった。


「2号」が運転する「ブーデー車」が私達の元を立ち去った後には、
わずか1日で使い切った『VAN16』の空き缶だけが残されていたのであった・・・・。







そして、次の日・・・・


私 「はぁ〜・・・・昨日は本当、ムカついたよ。」
I君「知ってるか?あのデ●。N君に
   『私と付き合う事が出来て幸せでしょ?』
   と同等の事、言ってたらしいゼ」

私 「・・・バカじゃねぇの?!」
I君「うん、脳味噌まで皮下脂肪ついてるな、ありゃ。」
私 「750mlもある『VAN16』を一晩で使い切りやがったしな。あいつ。」
I君「それは、余り関係ないけどな。」


話せば話すほど「ブーデー」への不満が高まる。

しかし、N君に「別れろ」とも言えない。


私とI君は他の良い対応案を出せないまま、いたずらに時が経過していった。




I君「はぁ・・・ビリヤードしに行くかぁ・・・。」

悩みに悩んだ挙句、浮かんだのは何故かビリヤードだった。


取りあえず、ビリヤードで精神安定を図ると共に、
マスターに「ブーデー」の事を相談してみよう、と考えたのであった。







ビリヤード屋に着いてからも、ビリヤードをやらずに
私とI君はカウンターでコーヒーを飲みながらマスターと話し込んでいた。

軽い相談のつもりが何時の間にやら熱くなってしまい
今まで溜まっていた「ブーデー」への不満を一気に晴らす様に
言いたい事をマスターにバンバン喋りまくっていたのであった。


それを黙って聞いてくれていたマスターは
私達が言い終わった頃を見図い、その重たい口を開き始めた。


マスター「そうか・・・実はね、彼女に対しての不満は前からあったんだよ。
I君  「えっ!・・・そうなんですか?」

なんとも意外な言葉だった。


マスター「そう・・・あそこで撞いてる常連さんいるでしょ?」

台の方を見ると、その常連の人が一人で練習していた。
何でも、ここの店にきてから5年以上通いつづけているらしい。


マスター「彼なんか彼女(ブーデー)がギャーギャーうるさいのに頭に来て
     『あの女が来るんだったらもうココの店来ないよ。』
     とか、言われちゃってね。」



さらに聞いてみると、その人だけでは無く
「ブーデー」を見た事がある他の常連の方々、さらには店員までもが
あの「ブーデー」の傲慢ぶりを快く思っていなかったそうだ。


私「へぇ〜、そうなんですかぁ・・・。」



それからと云うもの、私の気持ちが楽になっていった。
今まで悩んでたのが嘘のようだった。

これから先、もしも「ブーデー」に対してムカついた事があっても、
恐らく、笑って済ませられると思った。
「ブーデー」嫌いは私達だけじゃなかったのだから・・・・







やっぱりダメだった。



それから1週間後。

私が一人でビリヤード屋に行き、ひょんな事から
「ブーデー」と「2号」とマスターの4人でビリヤードをやった時の事だった。

人が撞いているのにも関わらず、相変わらず「ブーデー」はギャーギャー。
今日も体から相変わらず「VAN16」っぽい臭いを発してる。
そのせいで、まともにビリヤードに集中できない。

さらに私が撞こうとする瞬間に、

豚「・・・ねぇ、1番寄せ玉し難い位置ってどう云うのか知ってる?」
私「・・・はぁ?」

と、絶妙なタイミングで話し掛けてくる。


(チッ・・・、又「ボヤキ」が始まったか・・・・。)


目的の玉(的玉)を入れる際、あらかじめその次に入れる的玉を
入れやすい位置に手玉を持っていく事「寄せ玉」と言うのだが、
どうやら、この子豚ちゃんは
その「寄せ玉」が考えにくい位置は何処なのか?
と尋ねているのだ。


私「さぁ・・・知らないねぇ・・・。(まともに返事する気無し)


すると「ブーデー」は

(あらあら・・・そんな事も知らないの?)

と言うような表情で「フッ」と鼻で笑いながら、


豚「・・・ポケットと手玉がまっすぐになってる奴よ。
  引くか押すしかできないから、寄せし難いでしょ。」

私「・・・」


(これはお前の場合だけだろうがっ!!)

そう心の中で叫んだ。
確かに上記のケースは手玉の動きが限られるが、
難易度は個々によって異なるし、現にそれより寄せ難い配置もイッパイある。

要するに「ブーデー」は知ったかぶりの知識を私に教える事で

「私は何でも知ってるのよ、ブヒヒ・・・。」(←「ブヒヒ」は想像)

と云うような、精神的優位に立ちたいのだ。


そう考えただけで、だんだんイライラし始め、
さらに輪を掛けてビリヤードの調子は悪くなっていった。



しかし、それだけなら未だ良かった。
勢いが止まらない「ブーデー」は次の瞬間、最悪の一言を私に言ったのだ。





「そもそもさぁ、撞き方が悪いのよね。」





・・・あン、もうダメ・・・。


その時頭の中で「プチン」と何かが切れた音がした。




「・・・ごちゃごちゃうるせぇなぁ・・・、
 少しは静かにしてろ!このクソデ●(ピー)!




・・・遂にキレちゃいました。エヘ♪



こうなったら、もう止まらない。
突然の私のキレ具合に呆然としている「ブーデー」の前で
ありとあらゆる罵詈雑言を約3分間浴びせ続けたのであった。



うわぁ〜、楽しいなぁ〜・・・・





そして、30分後。

私はカウンターで落ち込んでいた。

ムカついたとは云え、何て大人気ない真似をしてしまったのだ。
お店にも迷惑をかけてしまった・・・。

「はぁ〜、先に怒ったモン負けだよなぁ・・・。」

とヘコんでいる私の前にふと何かが置かれた音がした。

見るとそこには、入れたての暖かいコーヒー。
マスターからの奢りだった。


私は顔を見上げてマスターを見ると、

(決して、間違っていなかったよ。)

と云う様な顔をして私に微笑みかけた。


(マスター・・・ありがとう・・・。)

と心の中で感謝しながら、私はコーヒーを口へ運んでいった。

私の中の汚れた心を洗い流すように・・・・。





それからと云うもの、私は「ブーデー」と接触する機会は以前と比べて激減した。
もしかしたら、私が「キレた」話はN君に伝わり、
N君が警戒して会わせない様にしてくれたのかもしれない。


ともあれ、結果的にブーデー軍団と決別できる事になった私は、

「いやー、あの時言いたい事言えて良かったなぁ・・・。」

と、しみじみ感じたのであった。




だが、実はその時私は大事な事を忘れていた。


事情を知らないI君を
「ブーデー軍団」に置き去りにしてしまった事を。














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