外では、カエルが鳴いていた。
『ケロケロ』
と云った可愛いレベルではない。
『ゲレゲレゲレゲレゲレゲレゲレゲレゲレゲレゲレゲレゲレゲレ』
と「ゲ」「レ」がハモった鳴き声が連続して続くのだ。
夜になると、窓の外の田んぼにいるカエルの軍団が一斉に大合唱を始めるのである。
『道路から一番離れた部屋だからうるさくない』
と思って借りたマンションが、この有様である。
「ううう・・・うるさいなぁ・・・」
等と思いながら、私は自分の部屋のパソコンでゲームをしていた。
その頃は既に「Mr.Narbee~N君がいっぱい~」の最終話を書き終わり、
サイトの更新する為のネタは既に無くなっていた。
2000年末から始まったあの「N君懇談会」も
その2ヵ月後に行われた「第2回~カラオケ祭り」を最後に止まっている。
ちなみに、その時はN君のヴォイスを永久保存すべく、
I君がその日の為だけに購入したボイスレコーダーを背後に忍ばせておいたのだが、
結局、録音に失敗してそのまま終了。
その後、「第3回~リベンジ祭り」を企画してみたが、
お互い仕事が忙しいとの理由により延期、そのまま現在に至るといった状態だった。
ゲームも一区切り付いた頃、メールチェックを行った。
「・・・おっ、1件来てる。」
と私は何気なくメールを開いてみた。
その時のメッセージ内容は、昔の事なので余り覚えていないが、
確か、以下のような感じだったと思われる。
差出元は携帯電話から。
件名は『ふざけるな』といった類のキーワード。
そして、内容には
『勝手にオレを出しやがって』
『今すぐ消せ!!』
『最低だな・・・』
等と云った罵詈雑言が延々と書かれていた。
「あれ?・・・も、もしかして・・・N君?!」
衝撃の瞬間だった。
私がN君に内緒で書いたコンテンツ、
「Mr.Narbee~N君がいっぱい~」を遂に発見されてしまったのだ。
と思ったら・・・
「・・・って・・・待てよ?」
一つ、不審な点に気が付いた。
本文の中には罵詈雑言だけで、
「○○だけど・・・」と云う様な本人と断定出来るキーワードが全く無かったのだ。
もしかしたら、「なりすまし」である可能性がある。
ただ、本文中に抜け忍事件の話が収録された「忍者になったN君」に関する指摘があり、
『あんなのはウソだ!!
靭帯が切れたんじゃなくて、遊んでたら間違えて
同僚を【ピー】しそうになったから責任取って辞めたんだよ!!」
と別に言わなくても良い事まで書いてある。
(本物か偽者か・・・どっちだ?)
(・・・N君ぽいよなぁ・・・。)
(万が一、N君じゃ無かったら最悪だよなぁ・・・)
(しかし、本当は【ピー】したのか・・・それはそれで興味がそそられるな。)
(つーか指摘された「抜け忍事件」の話以外は本当って事か。)
と様々な可能性が出てきて混乱し始めた私は、
仕方無く、同居人である「かみさん(仮)」に相談する事にした。
「まずは『名を名乗れよ』って感じだよね。」
「そうだよね。」
と「かみさん(仮)」に即答された私は、結局そのメールに対し、
『先ずは名を名乗れ』『それがマナーだろ。』
と云った内容を書いたメールを返信した。
そして、次にメールが来るまで様子を見ようとしたのであった。
しかし、何日経っても返信は来なかった。
「やっぱ、別人だったのか・・・恐ろしく巧妙だったな・・・」
と私はホッとしたと共に、インターネットの恐しさというのを改めて実感したのであった。
ある日、私の携帯電話に着信履歴が入っていた。
Wさんだ。
私 「おっ・・・そうか、そろそろ飲み会の時期か・・・」
うどん屋では「女帝」と言われ恐れられていたWさん。
今ではバリバリの専業主婦として頑張っており、
うどん屋を辞めてからも連絡を取り合っていたWさんとは
数ヶ月間隔で会っては、飲みにいっていたのであった。
いつもの飲み会だと思った私はWさんに場所・日時を聞くべく折り返し電話をかけ直した。
『トゥルルルル・・・・・・』
Wさん「(カチャ)・・・あ、○○(←私)ちゃん?」
私 「もしもしー、飲み会何時やるのー?」
すると、Wさんの口から想像もしていなかった言葉が返ってきた。
Wさん「は?!飲み会?・・・違うわよー。」
あれ?・・・なんか怒ってる口調になってる。
私 「え・・・じゃあ何の用だったの?」
Wさん「・・・ねぇ、○○(←私)ちゃんさ。
あんた、ホームページ持ってるんだってね?」
私 「あ・・・ああ、持ってるけど・・・なんで知ってるの?」
あれ?・・・教えても無いのに何故、私のサイトを知っているのだろうか?
Wさんはパソコンを持ってなかったので、教えてない筈なのに・・・。
私 「ねぇ、それ、誰から聞いたの?」
Wさん「N君よ。」
うわああああああああああ!!!
やっぱバレてるううううううううううっ!!!
そこでWさんは今までの経緯を語ってくれた。
つい数日前に、突然N君から
「相談があるからWさん家に行くね、じゃ」
と電話が掛かってきたそうだ。
(いきなり・・・何なの?!)
と突然の来訪に戸惑いまくったWさんだが、仕方無く会って見る事にした。
すると・・・
既に「エーンエーン」と大泣き状態で、
何かが書かれたA4用紙数枚を手にしているN君。
「ウエエエエエエエエエ#&@@%%¥#%@#$$#$++*ホームページウェェ%¥*#$#$+%@%@+¥書いてウェェ%¥#%$@$#++メール@*%#$@$$#++**/¥!!!
「え!?なになに! 何言ってるか解らないわよ!」
「エグッ、エグッ、○○(←私)が・・・○○が・・・、こんな事書いてるんだよ~。」
と言いながら渡されたA4用紙には、
あの「忍者になったN君」の内容が書かれていたのだった。
「○○(←私)にね・・・○○にね・・・、メールを出したんだ・・・。
そしたらさ、冷たいメールが返ってきてさ・・・、本当、悔しかったよ・・・ウッウッ・・・」
とWさんの前で泣きじゃくるN君。
どうやら、私の冷たいメールにショックを受けたN君は、
そのままWさんの元へと駆け込んでいったのだ。
Wさん「あんた、このままだと・・・N君に刺されるわよ。」
私 「ひ、ひいいいいぃぃぃぃぃ!!!」
こうして、私は目出度くN君に命を狙われる事になったのだ。
しかし、私がそんな迫り来る恐怖にビビリまくっていると、
Wさんが今まで強めていた怒気を収めてこう語り始めた。
Wさん「でもね・・・第三者の視点から見たら、
全然大した事無いレベルだと思うんだけどねー。」
Wさんが云うには、私の書いた「忍者になったN君」を読んでも
本当に怒るようなレベルなのか?と疑問を抱いていたらしい。
Wさん「どちらかと言えば、N君への『愛情』が感じられたわよ。
それにナカナカ内容も面白かったしね。」
と思い出し笑いしながら語ってくれた。
書いた私にとって、何とも救われる言葉である。
Wさん「そんでね、N君に言ったのよ、
『ちゃんと文章全部読んだの?確かにN君の事書いてあるけど、
○○(←私)ちゃんの愛情がすごく感じられるよ。』ってね。」
Wさん「で、もう一度読ませるようにしたんだけど・・・ダメね。
全然『聞く耳持たず』だったわ。」
まぁ、確かに幾ら愛情こめて書いたとしても、根幹にあるモノは誹謗中傷の類。
流石にWさんもフォローしきれないわな・・・。
Wさん「とにかく、ホームページは何とかした方が良いと思うよ。」
私 「そうだね、何とか考えてみるよ。」
Wさん「頑張ってね。」
と散々フォローしてもらった私は、電話を切ったのであった。
さーて、どうしようか・・・。
「N君がいっぱい」に対する今後の扱いを考えてみた。
手っ取り早い方法は削除する事だ。
しかし、Wさん、つまり第三者の視点から見てくれた
(N君への『愛情』が感じられたわよ。)
という感想が胸に引っかかっていた。
私もWさんも、N君が本当に全てのページに目を通しているとは、とても思えなかったのだ。
確かに、N君には内緒で書いた。
それは認める。
しかし、決して怒りや憎しみを込めて書いた訳では無い。
『N君と云う人間をみんなに知ってもらいたい』
と云う一心で書きあげたのだ。
もしかしたら、N君は誤解しているのかもしれない。
もしかしたら、私が持っているその純粋な思いをN君にぶつければ、
解ってくれるのでは無いだろうか。
まぁ、正直に言うと
時間をかけて作った『サイト』を消したくない
と云う邪な理由もあって、結局「様子を見る」事に決定したのだった。
それから数年が経った。
N君に命を狙われている、と云う事を私はすっかり忘れてしまっていた。
当然、「Mr.Narbee~N君がいっぱい~」もLZH形式に圧縮してみたが、
基本的には放置したままの状態であった。
そんな時、私の携帯に掛かってきたWさんからの一言によって、
再び、衝撃的だったあの忌まわしい出来事を思い出す事になる。
どうやら・・・
N君から連絡が来たらしいのだ。
Wさん「『○○がさ、○○がさ、ページ消してくれたんだよぉ~』って喜んでたわよ。」
私 「・・・あのー、消してないんですけど・・・。」
こうして、長期に渡った事件に幕が閉じられた。
N君が「消えてたー」と誤解した理由については
残念ながら聞き出すことは出来なかったが、恐らく
- N君が再び閲覧したとき、たまたまサーバメンテナンス中だった。
- N君が再び閲覧したとき、たまたまサーバを移転していた。
- N君が再び閲覧したとき、たまたまページを削除し、代わりに圧縮ファイル化(LZH)して配布していた。
の何れかに該当すると思われる。
こうして、私はN君に命を狙われる危険からは一旦退避された訳だが、
2008年4月1日に復活したこのサイトが、N君に発見される可能性が無い、とは言い切れない。
そこで、私はある予防策を取った。
それは、この「Mr.Narbee~N君がいっぱい~」を
ノンフィクションではなく、フィクションにする事。
そう、
N君から生まれてきた「Mr.Narbee」は
たった今、N君の元を離れ、
新たなキャラクターとして生まれ変わったのであった。
と説明して、納得してくれるかが問題だ。
完
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