遂に私は「ブーデー軍団」と云う「牢獄」から脱出する事は出来た。
がしかし、その経緯を聞かされていないI君は相変わらず取り残されたままである。
私は後日、I君に「脱出」した件を話した。
I君「おいお~い、ヒドイよ~。上手い具合に脱出しやがってさぁ。」
私 「ごめんごめん!・・でもI君も同じ風にやってみれば?」
I君「うう、すぐ出来たら苦労しないよ。・・・きっかけがあればなぁ・・・。」
そう、要は「きっかけ」だ。
しかし「きっかけ」は「きっかけ」でも、私が居なくなった事が「きっかけ」で、
今まで保っていた軍団内の均衡が崩れ始めつつあるとは、その時は知る由は無かった。
「ブーデー軍団」には2人の女性が在籍していた。
まず、言わずと知れた「ブーデー」。
そして、もう一人。
「ブーデー車」の運転手、「2号」である。
だが、彼女は「ブーデー」と体・格好は酷似しているが、
性格はとても温厚で大人しい性格であった。
その為、彼女に対しては特に嫌な気持ちは無く、
「ブーデー」と話すよりかは・・・と云う気持ちもあってか、
私とI君もごく普通に彼女と接する様にしていた。
そんな時、ある出来事が起こった。
I君は外に出てタバコを吸っていた。
当時のI君は、とあるデザイン関係の専門学校に通っていたのだが、
そのビルは駅から1分の距離と云う場所に恵まれながらも、
騒音防止の理由の為か、ビル自体に窓が存在しなかった。
よって、I君は休み時間になると、ちょくちょく外に出ては
新鮮な空気を吸いにタバコを吸うのが習慣になっていた。
その日もいつもの様に外に出て新鮮な空気を吸っていると、
道路を挟んだ向こう側にある不動産屋に、窓を拭いている女性の姿が見えた。
それを何気なく見ていたI君だが、
「あれ・・・?どっかで見た事あるなぁ・・・。」
なんと「2号」であった。
実は彼女は不動産屋で働いており、
偶然にもその場所はI君が通う専門学校の向かい側だったのだ。
「へぇ~・・・、こんな所で働いてるんだぁ・・・。」
前述した様に「2号」に話し掛けるのは抵抗が無かったI君。
目の前の2車線道路を横切って「2号」に話しかけに行った。
I君「よぉ!ここで働いてるんだねぇ。」
2号「あれ・・・?Iさん・・・どうしたの?」
I君「あ、実はオレ、そこの専門学校に通ってるんだ。」
と、まぁそんな何気ない会話を交わした訳だが、
実はその出来事によってI君が自ら災難を呼んでしまった事になる。
「ブーデー」にはN君と云う彼氏がいるが、
「2号」には彼氏と呼ばれる人は存在しない、いわゆる「フリー」って奴だ。
ここからは予測の範囲でしか無いが、
恐らく「2号」にしてみれば
「『ブーデー(仮名)」には居るのに、私は・・・・。」
と云う気持ちがあったのでは無いかと思われる。
それを裏付ける証拠として、後にN君から聞き出した情報がある。
その情報によると、
当時「2号」が彼氏が居ない悩みを「ブーデー」に打ち明けた際、
豚「じゃあさ、○○君(←私)かI君のどっちか、狙っちゃえば?」
と私達が震え上がるような恐ろしい助言をしたらしいのだ。
元々、男の免疫が無い「2号」。
その助言がトリガーとなり、私やI君が気軽に話し掛けていたのを変に勘違いし、
少しずつ異性として意識させてしまったと思われる。
ただ、それだけなら大事に成らなかった。
それは意識の対象が私とI君の2人に分散されていたからだ。
しかし、私のブチギレで「軍団」から脱退した事、
そして町田での偶然の出会いと云った要素が積み重なった挙句、
「2号」の「妙な意識」は遂に「恋心」となり、
「I君と2号をくっつけよう」プロジェクトは起動されたのであった。
当然、参謀役には「ブーデー」、
諜報係には「N君」が選ばれたのは言うまでも無い。
町田での出会いから暫くして、奴らは行動を開始した。
まずは会う機会を多くしようと考えていたのか、
I君をカラオケに誘う回数が異様な程多くなったのだった。
当時のI君は「2号」に狙われている事も露知らず、
「カラオケ行こうよー、奢るからサー。」
と言ってくるN君の「奢り」と云う言葉に負け、
ホイホイと付いて行ってしまうのであった。
しかし、I君も馬鹿では無い。
2回目のカラオケで流石に様子が変だと気付く。
その日はいつもの様に「ブーデー車」が迎えに来るのを待っていた所、
「ごめ~ん、○○ちゃん(2号)今、車出せないんだってさ♪」
との連絡を受け、仕方が無く自分の車でN君の家まで迎えに行った。
その後、暫くN君の家で寛いでいると、
I君「あれ?いま○○ちゃん(ブーデーの意)居ないの?」
N君「あ・・えっとね・・」
とその瞬間、
「あー、来てたの?」
の声と共にタオル一枚身を包ませた風呂上がりの「ブーデー」が現れた。
その姿を目撃した時ふと、
(あれ・・・?何でこんなにアットホームな関係になってるんだ・・・俺?)
といつの間にか「ブーデー軍団」に溶け込んでいる事実に気がついたそうだ。
その後、カラオケに行った時にも
【ドア】 [N君][ブーデー] [2号][I君]
と云った、容易に脱出できない位置に追いやられたI君。
又、ブーデーが「酒と泪と男と女」を熱唱している横で、
「I君って、どう言う子が好みですか?」
と「2号」から尋ねられたI君。
少しでも「2号」に希望を持たせない様に、
「(痩せててスラっとしてるから)工藤静香みたいな(太ってない)子が良いなぁ」
と答えたにも関わらず、その直後
「MUGOん・・・色っぽい(C)工藤静香」を「2号」に熱唱させられたI君。
そんな余りにも愚直なアプローチに
(ヤバイ・・・本格的に狙われている・・・)
と実感したそうだ。
しかし、I君は迷った。
「ゴメン・・・貴様はタイプじゃあないんだ。」
と言って、万が一I君の勘違いだとしたら、
「何か・・・勘違いされてません?・・・自分自身を。」
とか
「自分がそんなモテると思ってるのぉ~ブフィー。」(←「ブフィー」は想像)
と、たかが「ブーデー」如きにバカにされるのは耐えられないからだ。
それに、何と言ったって「奢って貰える」特典がある。
別に今以上のアプローチもしてこないだろうし、
(まぁ、気付かない振りしてスルーすりゃ良いか・・・)
と遂には様子見を決め込んでしまったのだ。
しかし、第三者である私から見てみれば・・・・
I君がかなりヤバい位置にいるのは間違いない、と感じた。
このまま行くと、心身ともに「ブーデー軍団」の仲間入りだ・・・。
しかし、面白そうだったので放って置いた。
そして1週間後、その予感は的中する。
I君が暫く人間不信に陥ったと言われる
世にも名高い「I君拉致未遂事件」に発展するのであった。
その日、I君が私の家にやってきたのが午前3時。
窓を「コンコン」と叩く音で目が覚めた。
「う~ん・・・こんな夜遅くにだれだぁ?!」
と眠い目を擦って窓をこっそり開けてみると、
そこには顔面蒼白のI君がいた。
「・・・なんだよ、I君か・・・今何時だと・・・」
と言いかけたその時、私は目を疑った。
I君は唐突に
「た・・・頼む・・・助けてくれぇ~!!」
と助けを求めてきたのだった。
その時私には何がなんだか解らなかったが、
取りあえず、I君を部屋の中に入れて話を聞いて見る事にした。
私の部屋に置いてあったペットボトルの烏龍茶を飲んで、
心なしか落ち着きを取り戻したI君は
今までに起こった出来事を淡々と語り始めた。
バイト先で「I君と『2号』は恋人同士だ」とN君が触れ回っていた事。
迫り来る「2号」に「その気は無い」と告げようとした事。
それを察知した「ブーデー軍団」が実力行使に出始めた事。
I君に酒を飲ませる等で思考能力を低下させた上で既成事実を作ろうと目論んでいた事。
そして、「2号」の自宅にもう少しで拉致されそうになった事。
生命の危機を感じたI君は、逃げた足でそのまま私の家へやってきたのであった。
「そっか・・・そんな事になってたんだ・・・。」
私は思わず呟いた。
I君が「2号」に狙われている事を知ってはいたが、
ここまで追い詰められているとは思わなかった。
今まで、I君から「どうしよう」と相談に乗られたことはあったが、
何となく面白そうだったので、
「どうせなら、付き合っちゃえばぁ~?あはははは」
と完全傍観者の私はI君に冗談を飛ばしてばかりいた。
しかし、I君はずっと一人で迫り来る「ブーデー軍団」の恐怖に怯えていた。
その時の心細さは想像以上のものだっただろう。
語り終わった後、I君が付け加えるように言い出した。
I君「・・・頼みがあるんだけどさ・・・。」
私 「・・・何?」
I君「あいつらにさ、『I君は昔の彼女とヨリを戻した』って
何気なく伝えてくれないかな?」
私 「へっ・・・?I君、ヨリ戻したの?」
I君「いや、そう言う事にして欲しいんだ。
そしたら奴ら、諦めると思うんだ。」
ふむ、なるほど。
仲良く話しただけで勘違いする「2号」の事だ。
「彼女がいる」と言ってしまえば諦めがつくかもしれない・・・。
しかし、その言い訳が本当に「ブーデー」達に通用するのかどうか・・・。
「ん~、でもさぁ・・・。」
と私が言った時、
「もう、それしか方法は無いんだよ!!
頼むよ・・・俺、もう耐えられないんだよ~~~!!!」
とI君が精神的に追い詰められたような顔で訴えてきた。
I君とは中学校からの付き合いだが、そんな弱気を見せたI君は今まで見た事が無い。
「・・・解った解った、やってみる。」
私はその切実な願いに答えるべく、
「ブーデー軍団」に嘘の証言をする事にしたのだった。
私の証言は想像以上に効果があった。
ビリヤード屋で「2号」から
「あの・・・I君って好きな人いるんですか?」
と聞かれたので、
「好きな人っつーか、最近昔の彼女とヨリを戻したらしいよ。」
と答えた所、ショックを隠し切れなかったのか、
店内のカウンターで「ブーデー」に慰められていた様子を見る事が出来た。
はっはっは、ざまあみろ。
これで「ブーデー軍団」もI君の事を諦めるだろう。
しかし、「2号」も可哀相だ。
そもそも「ブーデー」の口車に乗せられたのが発端だ。
そう、ある意味「2号」も今回の被害者なのである。
もしかしたら「ブーデー」と係わり合いの無い人生、
そして違った形で我々と出会っていれば、仲良くなっていたのかもしれない・・・。
そんな事を考えながら、私は家路へと向かっていった。
それから暫くして、N君が「ブーデー」に捨てられた話を聞いた。
悪名高き「ブーデー軍団」は遂に滅び去ったのだった。
原因についてはN君に聞かなかったので解らない。
ただ、余りのタイミングの良さから、
(「ブーデー」は「2号」とのWデートを夢見ていたのか?)
(始めから、我々をターゲットを絞っていたのでは無いだろうか?)
と感じずにはいられなかった。
ともあれ、過ぎ去った恐怖に安堵した私とI君は、共に手を取って喜び合い、
横では相変わらず立ち直るのが早いN君が、いつも通りヘラヘラしていた。
これでやっと平和が訪れたのだった。
ところで、今までN君が付き合った女性は
私とI君の手によって「殿堂入り」させるのが習慣となっていたが、
余りにも衝撃的だったキャラクター「ブーデー」に敬意を表し、
命名の儀式に加え、特別に約半日かけて『テーマ曲』を作成した。
これで永遠に「ブーデー」の名は語り継がれるであろう。
(そんなブーデーテーマ曲の歌詞リストはこちら)
それから数年後・・・、
あれほど私達の周りを掻き回すだけ掻き回した「ブーデー」達は
ビリヤード屋に行っても、全く見かけなくなった。
もう「ブーデー」達は遠い所へ行ってしまったのだろうか?
ところがある日、衝撃的な情報がI君経由で流れてきた。
I君「弟がさぁ、ビリヤード屋に行ったらしいんだけどさ、
その時『太った女性を2人見かけた。』って言ってたんだよねぇ。」
私 「ま・・・マジですかああああああ!!!!」
そう、まだ「ブーデー軍団」は健在だったのだ。
もしかしたら今でも彼氏を探しに、
当ても無く夜の街を彷徨っているかもしれない。
ほら、貴方の背後でドアの音が『カランカラン』と・・・。
ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ
完
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